外国人技能実習生における所得税の取扱いについて

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少子高齢化が進み労働人口が減少しているため、外国人技能実習生を採用する企業が増えてきました。
ここでは、外国人技能実習生が訪日するに際し発生した、入国時の渡航費や日本語学習に係る費用を会社が負担した場合の外国人技能実習生における所得税の取扱いについてご説明いたします。

新規に採用する外国人技能実習生への支給

新規採用にあたって外国人技能実習生へ支給するものについて、(1)入国時の渡航費、(2)送出機関への支払手数料、(3)日本語学習費用の3つに分けて、所得税の取扱いについてご説明いたします。

(1)入国時の渡航費

就職に伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものについては、所得税は非課税とされています。(所9Ⅰ④)
また、非課税とされる旅費の範囲については、所得税法基本通達において次のように記載されています。

(非課税とされる旅費の範囲)
9-3 法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。
(1)その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2)その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

(2)送出機関への支払手数料

直接外国人技能実習生に適用される法律ではありませんが、国家公務員等の旅費に関する法律において、旅行雑費は旅費の種類の一つとして規定されています。
また、旅行雑費の内容については、次のとおり規定されています。

(旅行雑費)
第三十九条の二 旅行雑費の額は、旅行者の予防注射料、旅券の交付手数料及び査証手数料、外貨交換手数料並びに入出国税の実費額による。

このことから、送出機関に支払う手数料についても旅行雑費に該当し、旅費に含まれるものと考えられるため、新規採用にあたって外国人技能実習生へ支給する送出機関への支払手数料については、所得税は非課税になるものと考えます。

(3)日本語学習に係る費用

外国人技能実習生へ支給する日本語学習に係る費用について、採用後における日本語学習と採用前における日本語学習に分けてご説明いたします。

採用後における日本語学習

採用後に外国人技能実習生が受けた日本語学習に係る費用について、会社から支給を受けたものについては、所得税は非課税になるものと考えます。
所得税が非課税となる根拠規定としては、2つ考えられます。

一つ目は、所得税法9条1項15号を根拠とする、学資金に関する規定です。
この規定によると、学資に充てるため給付される金品は、給与その他対価の性質を有するものを除き、所得税は非課税とされています。
ここでの「給与その他対価の性質を有するもの」については、給与所得者が使用者から受ける学資金であっても、その学資金が通常の給与に加算して受けるものであり、かつ、法人の役員など一定の者の学資に充てるもの以外のものであれば、「給与その他対価の性質を有するもの」には該当しないものと取り扱われ、所得税は非課税とされています。

二つ目は、所得税法基本通達36-29の2を根拠とする、技能習得費用に関する記載です。
この記載によると、使用者の業務遂行上の必要性に基づき、使用人に当該使用人としての職務に直接必要な技術もしくは知識を習得させ、又は免許もしくは資格を取得させるための研修会、講習会等の出席費用又は大学等における聴講費用に充てるものとして支給する金品については、これらの費用として適正なものに限り、所得税は非課税とされています。
ここでのポイントは、「職務に直接必要」なものに限定されている点になります。外国人技能実習生が職務を遂行するうえで、日本語が必須でない場合には、所得税が非課税とされる技能習得費用に該当しないことになります。

採用前における日本語学習

日本語学習に係る費用が既に支出されている場合には、採用時に支給する日本語学習に係る費用については、もはや「学資に充てるため」「技能習得費用に充てるため」に支給するものとはいえないため、所得税の非課税の対象とはならないものと考えます。
なお、外国人技能実習生が非居住者の時点で支給する場合には、国内において人的役務を提供することに基因する報酬として国内源泉所得是に該当するものと考えます。(所161Ⅰ⑫イ)
また、外国人技能実習生が居住者の時点で支給する場合には、役務の提供を約することにより一時に取得する契約金として、源泉徴収の対象になるものと考えます。(所204Ⅰ⑦、所令320Ⅵ) 

ただし、奨学金の返済に充てるための給付については、学資に充てるため給付する金品に該当するものとして、所得税は非課税として取り扱うこととされています。
この点については、国税庁の質疑応答事例において、次のように記載されています。

【質疑応答事例】
奨学金の返済に充てるための給付は「学資に充てるため給付される金品」に該当するか
所得税法第9条第1項第15号《非課税所得》は、学資に充てるため給付される金品は、給与その他対価の性質を有する一定のものを除き、非課税と規定しているところ、その貸与を受けた奨学金の返済に充てるための給付については、給付される金銭そのものがその奨学金の貸与者に支払われ、直接学資に充てられていないことから、その給付は原則として「学資に充てるため給付される金品」には該当しません。
しかしながら、奨学金の返済に充てるための給付は、その奨学金が学資に充てられており、かつ、その給付される金品がその奨学金の返済に充てられる限りにおいては、通常の給与に代えて給付されるなど給与課税を潜脱する目的で給付されるものを除き、これを非課税の学資金と取り扱っても、課税の適正性、公平性を損なうものではないと考えられます。

既に採用済みの外国人技能実習生への支給

(1)入国時の渡航費、(2)送出機関への支払手数料、(3)日本語学習に係る費用について、いずれも、実施と支給が近接していない状況下で支給されており、それぞれの目的のために充てられるという前提要件を満たさないため、所得税の非課税の対象にはならないものと考えます。

最後に

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