遺留分の税金の取扱いについて

相続

民法では、兄弟姉妹以外の相続人について、被相続人の財産から最低限の取り分を確保できるようにするため、遺留分制度が設けられています。
この遺留分制度については、民法改正により、「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」へ変更となりました。
つまり、遺留分権利者は金銭債権での請求が行えるだけになり、遺言による財産の帰属には影響が及ばないこととされました。
今回は、この遺留分侵害額請求がなされた場合における相続税の取扱いについてご説明いたします。

遺留分と小規模宅地特例

遺留分侵害額請求はあくまでも金銭債権の請求であり、財産の帰属を変更する効果はありません。
そのため、遺留分侵害額請求を受けて、遺贈により取得した財産を譲渡した場合には、代物弁済として取り扱うことになります。
例えば、甲が遺贈により取得した土地について、小規模宅地の特例を適用して相続税申告を行ったあとに、乙から遺留分侵害額請求を受け、当該土地を乙に譲渡した場合には、乙において小規模宅地特例の適用を受ける申告は認められません。乙は甲から代物弁済により土地を取得したのであって、相続又は遺贈により取得したわけではないため、小規模宅地特例の要件を満たさないことになります。
なお、甲においては、乙に小規模宅地特例の対象土地を譲渡した場合であっても、相続税の申告期限後の譲渡といったように、小規模宅地特例の保有要件を満たすのであれば、そのまま小規模宅地特例の適用を受けることができます。
この点については、国税庁の質疑応答事例「遺留分侵害額の請求に伴い取得した宅地に係る小規模宅地等の特例の適用の可否(令和元年7月1日以後に開始した相続)」に記載があります。

遺留分と相続税の計算

遺贈が遺留分を侵害するものとして遺留分侵害額請求が行われた場合において、その金額が確定したときの相続税の計算は、次に掲げる者の区分に応じ、それぞれに定める課税価格の合計額により行うこととされています。
⑴ 金銭の支払を受ける相続人(遺留分権利者)
・・・ 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額 + 遺留分侵害額に相当する価額
⑵ 金銭を支払う受遺者(遺留分義務者)
・・・ 相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額 - 遺留分侵害額に相当する価額

上記算式における、遺留分侵害額に相当する価額については、一定の条件のもと、次の算式により計算した金額となります。
なお、一定の条件については、「遺留分侵害額の支払の請求の基因となった遺贈に係る財産が特定され、かつ、その財産の相続開始の時における通常の取引価額を基として当該遺留分侵害額が決定されているとき」とされています。

遺留分侵害額 ×〔遺留分侵害額の支払の請求の基因となった遺贈に係る財産の相続開始の時における価額(相続税評価額)÷遺留分侵害額の支払の請求の基因となった遺贈に係る財産の遺留分侵害
額の決定の基となった相続開始の時における価額(時価)〕

つまり、遺留分侵害額を時価と相続税評価額との割合で圧縮計算して相続税の課税価格を算出することになります。
ただし、 共同相続人及び包括受遺者(遺留分義務者を含む。)の全員の協議に基づいて、上記の方法に準じた方法又は他の合理的と認められる方法によりその遺留分侵害額に相当する価額を計算して申告する場合は、その申告した額として差し支えないとされています。

なお、上記算式における分子の金額である、相続税評価額については、小規模宅地等の特例の適用前の価額によることとされています。

遺留分と代物弁済

遺留分侵害額請求を受けて、資産を譲渡した場合には、遺留分侵害額に係る金銭債務を履行するための資産の移転として、代物弁済に該当することになります。
この場合、原則として、その履行により消滅した債務の額に相当する価額によりその資産を譲渡したことになり、所得税が課税されます。
この点については、所得税法基本通達において次のように記載されています。

遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて行う資産の移転)
33-1の6 民法第1046条第1項《遺留分侵害額の請求》の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合において、金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産(当該遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求の基因となった遺贈又は贈与により取得したものを含む。)の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる。

遺留分侵害額未確定の場合

遺留分侵害額請求が行われたものの、相続税の申告書の提出期限までに遺留分侵害額が確定していない場合には、遺留分侵害額請求がないものとして相続税の課税価格を計算することになります。
この点については、相続税法基本通達において次のように記載されています。

(裁判確定前の相続分)
11の2-4 相続税の申告書を提出する時又は課税価格及び相続税額を更正し、若しくは決定する時において、まだ法第32条第1項第2号、同項第3号、法施行令第8条第2項第1号又は第2号に掲げる事由が未確定の場合には、当該事由がないものとした場合における各相続人の相続分を基礎として課税価格を計算することに取り扱うものとする。

なお、相続税の申告後において遺留分侵害額が確定した場合には、遺留分義務者は、確定した事実を知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をすることができます。(相32Ⅰ③)
他方、遺留分権利者は期限後申告書又は修正申告書を提出することができます。(相30Ⅰ、31Ⅰ)
ここでは、期限後申告、修正申告については特則として、「できる」規定となっていますが、遺留分義務者による更正の請求に基づき更正の請求をした場合には、税務署長は遺留分権利者に対して更正処分を行うことになります。(相35Ⅲ)

最後に

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